オープニング もしかしてピンチ?
羽丘女子学園 天文部部屋
日菜は、今日も天文部部屋で何やら楽しそうにやっている様子。
ふと、棚に置いてあった先輩たちの天文ノートを手に取る。オリジナルの星占い研究をやっていた先輩のノート。それから、こっちは羽丘の秘密の天体観測スポットをまとめたもの。いろいろなノートに出会うたびに、日菜は自分も先輩たちが残したようなるんっ♪とくるノートが作ってみたいと思った。
急に、部屋の戸が開いて、つぐみが慌てた様子で入って来る。そして、部屋の散らかりようを見て、泥棒でも入ったのかと思った。実は、暇を持て余して日菜は天文部部屋の片づけをしていたところだったのだ。
つぐみの大慌ての理由、それは…。
つぐみの話によれば、生徒会の会議で、部活動の実態調査をすることに決まり、部として正しく活動しているかどうかの調査があるらしい。正しく活動していない部は場合によっては廃部もありうる。天文部は廃部の有力候補になっているのらしい。
それを聞いて、日菜は大慌て。自分では部活はやってきたつもりだ。まさか部員が日菜一人だけというのが廃部候補の理由?
実は天文部は報告されている活動の内容の記述に問題があったようなのだ。つぐみが言うには、「今日は星を見た」「るんっ♪とした星空だった」ばかりの記録で、本当にちゃんとした活動がなされているのかどうか疑問視されたということなのだ。
日菜としては、ちゃんと活動報告をしているつもりになっていたのだ。つぐみから、何か記録に残しているものはないかと尋ねられた。例えば、天体観測の記録とか星の写真とか、活動しているという証拠になるものが提出できれば、生徒会も納得してくれるだろう。
しかし、記録なんてものは残してない。星を見ることに集中したいし、記録に残さなくても星のことは全部頭の中に覚えているし…。日菜は、そんなに心配しなくても何とかなるだろうと、至ってのん気に構えている。
それを聞いて、つぐみはこれ以上、何も言えなかった。
本当に危うい状況なんだけどな。このままだと、本当に廃部の危機がやってくる。もしかして本当にピンチ?…やっと気づく日菜だった。
第1話 特別な場所
氷川家
つぐみから聞かされた天文部廃部の危機をどうやって回避したらよいか、日菜なりの策を練っていた。
その様子が気になったのか、姉の紗夜が日菜に声をかける。日菜が考え事をしているなんて珍しい。よほど考える必要があるってことなんだろう。手にお菓子をもったまま食べもせずに、10分も固まっていれば、これは何かあるなと。
日菜は、もしかしたら天文部が廃部になるかもしれないと、紗夜に話す。日菜の提出した活動報告をみた生徒会の人たちが、ちゃんと活動していないのではないかと疑っていること。
日菜のことだから、また適当に書いて提出したのではないかと紗夜は思った。だけど日菜は、日菜なりにきちんと報告し、決して適当にやったわけではないのだと主張する。ただ、生徒会側が適当と思っているだけ…。
日菜はさっきから、部を何とか存続させる方法を考えてはいるのだけど、るんっ♪とくるアイデアがなかなか浮かばなかった。
日菜は、昔の先輩たちが置いていった研究ノートや日誌などに目を通すのが楽しかった。天文部にいた人たちって、みんなヘン。部室にはヘンな人たちのヘンなものがたくさんあって、部室がなくなれば読むこともできなくなる。その日誌の面白さを紗夜にも分ってほしいと、日菜は思った。
日菜が持ち歩いていた先輩の日誌には、こんなくだりがあった。
「12月12日、部室の隅にたまったホコリを発見!この形状はまるでかに星雲!やばい、部室の中に宇宙を感じる!これはこのままにしとこーっと♪」
紗夜には理解しがたい記述だった。日菜は妙に面白がっているけれど、このホコリの形状の何が面白いのか、これを日菜がなぜ面白がるのかも理解しがたいものだった。しかし、日菜にとってその部室が大切な場所であることは紗夜にもよく分かった。
部室がなくなったら困るというのならば、やるべきことは1つ。正しく活動していることを示し、部の存続を訴える!生徒会に良い印象を与えたいと考えるのなら、有意義な活動をしているところを見せなければならないということだ。例えば、他の生徒たちを巻き込んで、部の活動を伝える会を開くなど。部で得たものを外に発信するような活動であれば、生徒会の印象も良いものになるはず。
紗夜は、妹のために知恵を絞ってくれた。後は部の存続に向けて、自分なりに努力するしかない。どうやら日菜もやるべきことは分かったようだ。どんな活動を仕組むのか楽しみなところだ。
第2話 もうひとつの天文部
花咲川女子学園 中庭
中庭では、紗夜と燐子が話している。図書委員である燐子は紗夜に何冊かの本を手渡した。天文学に関係した本がなぜこんなに必要なのだろうかと燐子は不思議に思った。紗夜からいきさつを聞き、燐子は納得できた。
生徒会を納得させる活動を仕組むようにアドバイスしたものの、実際のところ天文部がどんな活動をするものかよく知らなかった紗夜は、これからに備えて、自分でも理解しておこうと考えたのだった。
天文観測に必要な物、必要な準備などが示された本は、どれを見ればいいのだろう。
燐子は、紗夜のリクエストに手際よく応じ、いろいろな本を紹介してくれた。特に、星の見つけ方や星座の由来など、イラスト付きでとても分かりやすい本を見せてくれた。
そんな二人のやり取りを遠目にじっと見ている人影が…。
そう、もうひとりの天文部所属の弦巻こころ。自分も星の本がとても好きなのだと、二人の会話に入って来る。
さっそく、星が好きなら、今度一緒に星を見よう!と誘って来る。空いっぱいの星を見たら、とても楽しい気持ちになれるのだと、こころは話す。
別に星に興味があって本を見ているわけではないのだと、紗夜は、これまでのいきさつをこころに話して聞かせる。するとこころは、天文部の楽しさを広める会について、自分も日菜の企画に参加したいと申し出る。
紗夜はいいことを思い付いた。2校合同の会になれば、学校間の交流の場にもなる。部の活動実績としては申し分のないものになる…。
ふと目を上げると、そこにはもうこころの姿はなかった。ものすごい速さで走り去って行ったのだ。
羽沢珈琲店
羽沢珈琲店では、紗夜が例の企画についてリサとつぐみに相談していた。きっと生徒会も理解を示すだろうと推してくれるが、紗夜は浮かぬ顔。うまくいくかどうかやはり心配なのだ。
紗夜は日菜のどこかズレているところ、しかもこころも一般的な感覚の持ち主とは言えないところがあるがゆえに、二人の組み合わせでこの企画のゆくえに何かしら不安を抱えていた。日菜の独特な、個性的な面をつぐみも感じ取っていた。紗夜は、この二人の組み合わせで脱線しないか心配でならないのだ。
そう話しているところへ、日菜とこころが入って来る。どうやら天文部の会の作戦会議をしようと考えたらしい。絶対にるんっ♪となるイベントになると言い、こころは笑顔でいっぱいになる会にしたいと思っている。さて二人はどんな作戦を立てようというのだろう。
奥のテーブルで、二人はさっそく作戦会議を始める。二人の話し声は聞こえてくるが、一体何を話しているのか紗夜は気になってしかたがなかった。リサは気になるなら一緒に作戦会議に参加したらどうかと提案するが、やはり紗夜としては日菜が自分自身でやらなければ日菜のためにはならないと考えていた。紗夜は本当にまるで先生みたいなところがある。
第3話 天文部は魅力いっぱい
翌日 羽丘女子学園 天文部部室
天文部部室では、日菜とこころがお菓子とジュースを準備して、イベントに参加する見学者が来るのを今か今かと待っていた。
そこへ現れたのは、リサ。リサもこのイベントがうまくいくかどうか気になって、様子を見に来たのだった。
結局のところ、イベントというのは、今まで天文部がどんな活動をしてきたかを発表する会にしたのだそうな。リサはてっきり星の写真とか天体観測の記録とかを発表する会なのかと想像したが、日菜はあっさりとそういうのじゃないと。
えっ???違う??
ジャジャーン。みんなに発表するのは、「歴代おもしろ天文部員の活動ノート&作ったヘンなもの!」
そういえば、先輩たちが作ったという置物らしきものが部屋中に飾ってある。部屋においてあった段ボールの中にたくさん入っていたので飾ったのだ。こころはそれを見て人形だか何だかよくは分からないけど、素敵だなどと言っている。日菜はそれを宇宙人の人形だと思っている。それを見ていると、宇宙を感じると楽しそうにはしゃいで話す。
こっちには、活動ノートが展示されている。リサはそれを手に取ってみた。「あたしの考えた惑星研究ノート」とか「流れ星を降らせる儀式の研究」とか、ちょっと変わったタイトルのノートたち。さすがのリサも、このイベントがうまくいくのかどうか不安感が増してきた。
リサたちの会話の横から、よくは分からないけど、どれも楽しい感じはとってもするなどと、こころはワクワクが隠せないでいる。
どこかズレている二人の様子に、リサは、ここに展示されているものはあんまり外に見せない方がいいのではないかと暗に伝えるのだが…。
そうこうしていると、第1号の見学者が入室してきた。生徒会の生徒だ。天文部がイベントをすると聞き、見学にやってきたのだった。
そこらの活動ノートを手に取り、内容を見て、戸惑いの表情を見せた。
日菜は、こっちの日誌ノートも見てほしい様子だった。日菜がるるるんっ♪とくるノートなのだから。さすがにこの雰囲気はまずいと感じて、リサはストップをかけようとするが…。
第4話 お姉ちゃんのアドバイス
羽沢珈琲店
羽沢珈琲店では、ため息をつきながら、紗夜が3杯目のコーヒーのお代わりをしている。
紗夜は、このノートに書いてあることを何とか理解しようと、何度も読み返しているところだったのだ。日菜は面白がって読んでいた日誌ノートだが、何が琴線に触れたのかが分らなかった。
どれどれ?つぐみもそのノートを覗き込んで、一節を読んでみる。
「12月15日、今日は雨なので黒板に星を描いて天体観測!ビックリするほど宇宙を感じた!」
何だか不思議な人が書いた日誌のようだ。不思議すぎて、読んでいてとても疲れると紗夜は話す。
そんな紗夜を見ていて、紗夜ってほんとうに妹思いなんだなって、つぐみは感じていた。なぜなら、読んでいて疲れるほどの思いをしながらも、まだ読んで理解しようとしている姿に、妹の日菜のことを心底から分ってやりたいという強い姉の思いを感じたのだ。
一方で、ただ理解できないものをそのまま放置するのが嫌なだけなのだと、紗夜は言い張るのだが…。
お店のベルが鳴って、リサが入ってきた。そして日菜とこころが後に続く。三人とも元気なさそうで、浮かない顔をしている。
結局、予定していた会はできなかったのだ。参加者が一人もいなかったからだ。こころはそれを不思議に思っていた。そして日菜は、先輩たちの残したものを見てもらえば、部のことが分ってもらえると思ったのだが…。それはうまく行かなかった。
まさか、例のノートを展示した?問いただす紗夜に、日菜は説明をする。紗夜は一応の理解は示したものの、ますます天文部の印象を悪くしてしまった結果について、今回のイベントが天文部の存続のためになるとは限らないことを日菜に話して聞かせる。
天文部の活動は天体現象に関わることである。個人的にどんな活動をするのも自由ではあるが、部としては天体観測の観察や研究を中心に成果発表しなければ、理解を得ることは難しい。星や宇宙の持つ魅力、それを観察することの醍醐味などを発表すべきだったのではないかと、姉らしく妹に諭す。
紗夜の話を素直に受け止めて、今度は、星や宇宙の面白さを伝えるイベントにしようと、にわかに張り切る日菜。天体観測会だったらうまく行くんじゃないかな。
星空の下でキャンプファイヤーをするとか…。みんなで歌ったり、踊ったりしたら、きっと楽しいだろうな。と提案するこころに、またもやすぐに同調する日菜。
あくまで星を見ること本来の魅力を伝える会にしなければ意味がないと、脱線する二人を何とか引き戻す紗夜。
例えば、冬の代表的な星座を上げ、それらの観測を目的にした会にする。夜空を見上げながら、星にまつわる話を日菜がすれば、それを楽しみに参加してくれる人も増えるのではないか…。
日菜は自分たちのために、熱心に天体観測について調べていてくれた紗夜のことがとても嬉しかった。こころも、どうしたら笑顔になれる天体観測になるのかを知りたがった。
前から日菜のやることにはなるべく口出しはしないようにしようと考えていた紗夜だったが、そこはやはり姉。妹の力になってやりたいという思いは誰よりも強かった。
第5話 あの頃と同じ
羽丘女子学園 校門前
日菜とこころは、校門前に立ち、花女と羽丘の天文部で合同の天体観測会をするというイベントの案内をしていた。そして、紗夜も一緒に立ち、詳しい説明をしている。
この観測会のメインは冬の星座の観測。オリオン座やおおいぬ座など代表的な星座を中心に、星空の魅力を伝える会にしたいという趣旨を語る。
それを耳にした生徒たちの反応もよさそうだった。冬の星座…とてもロマンチックな響きがする…。ちょっと気になる…。そんな会話を耳にし、日菜とこころはちょっぴり手ごたえを感じたようだ。
今のところ、参加希望者はなんと8人も!これならとりあえず観測会は開催できそうだ。でも本題は、納得できる会にならないことには成功したとは言えない!そう厳しいことを言いながらも、日菜が困っていれば、すぐに手助けをする紗夜の姿が際立っていた。
そんな姉妹の様子を見ていて、リサは微笑んだ。紗夜も出会った頃に比べると、ずいぶんと変わったものだ。気持ちが張り詰めて気難しい、近寄りがたいという印象があったが、今では表情も柔らかくなった。そばにいたつぐみもリサと同様の印象を持っているようだ。
しかし、当の妹である日菜は、それは違うと話す。紗夜は昔からこんな感じ。日菜が困っていればいつも紗夜が助けてくれた。絵本を読んでいて不思議に感じたことを紗夜にぶつければ、一生懸命にその答えを捜して教えてくれたり、何度も日菜が聞いて来れば、日菜が納得できる答えを本気で捜し、泣きながらでも説明してくれたりすることもあった。とにかく昔から面倒見がよくて、優しい姉だったわけだ。
日菜はそんな姉の紗夜が本当に大好きだった。姉のことを語る日菜はとても楽しそうに見えた。一人っ子のつぐみは、そんな日菜がちょっとだけ羨ましかった。
エンディング 星空を見上げて
観測会当日 羽丘女子学園 屋上
観測会では、夜空の星を見上げて、日菜が冬の星座の代表オリオン座の三つ星の説明をしている。
あれ!?香澄やあこも参加していてくれたんだ。巴の姿もあった。みんな楽しそうに観測会に参加している様子を見て、紗夜は安心感を覚えた。参加者が両校合わせて20人ほど。会としては十分な規模となった。これもつぐみやリサのおかげだと、紗夜は素直に感謝の気持ちを表した。
そこへ、大急ぎで主催者の日菜が話に飛び込んできた。
生徒会の生徒が観測会の様子を見に来ていたのだった。日菜の星の話が良かったこと、参加者が楽しんでいて良い会になっていたことなどを告げられ、日菜自身も大喜び。これで天文部存続の許可が出て、一安心だ。
日菜にとって、天文部部室は何よりも大切な場所。いちばんるんっ♪ってくるお気に入りの場所だから。
紗夜のおかげで、存続にこぎ着けたこと、日菜はこころからお礼が言いたかった。紗夜の助けがなかったら、こんなふうにうまくはいかなかったはず。改めて紗夜の手助けに感謝した。みんなと冬の星空を見上げて、ステキな時間を過ごせたし、紗夜にも宇宙のロマンを語ることができたし…。
だけど、1つだけ残念なことがあった。それは紗夜に対する不満とかではなく、最後まで先輩のノートを面白いと言ってくれる人に出会えなかったこと…。
あのノートに共感すること自体、無理がある。共感は無理にしても、理解することはできるかも。日菜があのノートのどこに面白みを感じているのかは姉として理解できたと思うと、紗夜は続ける。紗夜なりに分析した事柄を日菜に告げてみたが、空振り。
人の感じ取り方は人それぞれ。みんな違っていて当たり前。それを理解しようと努力することや、その感性を認めて、受け止めてあげるということが一番大事なんだ。無理に相手と同じように感じようとする必要はないし、自分は自分。それでいいんだ。
ほら、夜空を見上げて、あのふたご座の兄弟星を見てごらんよ。カストルは青白く、ボルックスはオレンジ色に輝いている。双子なのに、輝き方は全然違う。まるで紗夜と日菜のようだ。それぞれ自分らしく輝けばいいんだ。たとえ、輝き方が違っていたとしても、そこに並んで輝くことはできる…。共感することはできなくても、理解することはできるんだよ。