第17話 本当の声
数日後・美竹家 リビング
蘭は、次の新曲作りに没頭しているところだが、「本当の声」を届けたいと考えていた。その新曲がやっと今完成した。そこへ、タイミングよくモカから連絡が来た。モカは今すぐ聴きたかったのだが、明日みんなで聴くことになった。この曲はみんなはもちろん、父親にも聴いてほしいと蘭は思っていた。自分の本当の気持ちを届けたいだけ。そのために全力でやるだけ…。
翌日・スタジオ
ひまりの元気の良い掛け声で、スタジオ練習が始まった。蘭は、昨日完成した新曲をみんなに聴いてもらうことにした。みんなの反応は…?みんな言葉をなくしている…。ダメだったってこと?モカは、いつもの蘭らしくない歌詞だと気づく。巴も今までの歌詞と雰囲気が異なり、素直に表現されていると思った。蘭は、この曲をライブでやりたいと考えていたので、みんなに提案してみたところ、みんな賛成してくれた。しかし、本番までにはたったの1週間だし、これからアレンジして仕上げまでにはギリギリである。セットリストも新しく考えなおす必要が出てきたし、実際のところ時間的な厳しさがあった。
蘭は、直面する問題は分っていたけれど、だけど、この曲が演奏したいし、この曲で自分たちAfterglowの本気を見せたいのだ。蘭は、これまでいろいろなことから逃げてきた。父親からも、みんなからも。この前のつぐみのお見舞いの際、口喧嘩をみんなとして、初めて逃げないでみんなと向き合えた気がしたと蘭は話す。蘭にとって逃げないで向き合うってことは、すごく怖いことだったけれど同時に、蘭にぶつかってきてくれたみんなが、どれだけ大事な存在かということが改めて分かったと続ける。
だからこそ…この5人でこの曲でその思いを父親にぶつけたいのだと話す。少しワガママ風に聞こえるかもしれないけど、蘭と一緒に過ごしてきたみんなにはよく分かっていた。この曲でステージに立つ!早速ライブに向けて、この曲を練習しようとつぐみがみんなに働きかけると、みんなも大賛成!
蘭は、次にアレンジのことについて熱心に話を進める。ひまりは、みんなの様子を見ていて、やっとみんなが1つになれた、これならばきっと成功できる、という気がしてきた。
第18話 食べないなんて言ってない
1週間後・ガールズバンドジャム会場前
ガルジャムの会場に着いたつぐみとひまりは緊張が隠せないでいる。蘭も緊張気味だったのに気付き、モカは冗談を言って、みんなの緊張を解こうとしているところ。モカは蘭に、右手と右足が同時に出ているなんて冗談を言う。今日の蘭はいつもと違い、このように緊張しているのは珍しいことなのだ。特に今回は父親とのことがあるから、気持ち的にも落ち着かないのだろう。蘭のために、今日のライブは何が何でも成功させなければならないのだ。
楽屋
楽屋に入ってみると、そこには「美竹蘭様 祝・ご出演」のメッセージが添えられた立派な花が置かれていた。きっと蘭の父親からの贈り物に違いない。
楽屋には蘭の他に、酷く怯え切った子犬みたいにしている子がいた。それはつぐみだった。蘭のために頑張ろうと言っておきながら一番緊張しているのは、実はつぐみだったかもしれない。そこへ、スタッフから打ち合わせの声がかかった。バンドの代表として、ひまりが話を聞きに行くことになった。そして今度は、蘭に差し入れがあった。これもまた蘭の父親からのものだ。有名なドーナツ屋さんのおいしそうなドーナツ。思わずモカは1つを選んで、誰よりも先に食べてしまう。
打ち合わせから戻ってきたリーダーのひまりが、セッティングについて伝えるため、みんなに集合をかけた。モカは勢いよく返事をしたが、モカの口元には今食べたばかりのドーナツの欠片が付いている。蘭が指摘すると「おしゃれでつけてる~」なんて答える。本当にモカはマイペースな子だ。
第19話 そばにはいつも
楽屋
いよいよ出番が迫ってきた。この楽屋にも会場の熱気は十分に伝わって来る。緊張気味のつぐみは、大きく深呼吸をして、いつも通りだと自分に言い聞かせている。それを見ていたモカが、お客さんをパンだと思えばいいんだとアドバイスする。どうやらモカは演奏する時は、観客をおいしそうなパンが並んでいると思いながらやっているらしい。モカなりの緊張の解き方なのだろう。
ステージでは、演奏が終わったようだ。蘭が言う「いつも通り」の演奏ができればいいのだが…。
ステージ
ステージ上の蘭は、今までのイベントとは異なる熱気を全身で感じていた。今、この瞬間から、会場の熱を全て自分たちに集める!見逃さないで、ついてきて!!
蘭は、いつもより歌声に力強さがあった。今までの迷いが消し飛んだ如く…観客の熱に影響されて、まるで火がついたようだ!今こそ蘭の思いに応えなければ!
数曲後…
観客席からAfterglowを称賛する声が上がってきた。いい感じに盛り上がってきている。いよいよ次の曲で最後となる。蘭が道に迷った時、そばにはいつもメンバー達がいてくれた。今こうしてステージに立っていられるのも、この4人のおかげだ…。もう迷わない。どんなに迷ったとしても、もう逃げたりしない!…その気持ちを歌に託し、届けたい!!
そして、最終曲が終わった。鳴りやまぬ歓声…会場は大盛況で幕を閉じた。楽屋に戻ったメンバー達は安心感と達成感に満たされていた。緊張が解け、思わずひまりは泣き出す。つぐみは演奏しながら蘭に感動したと話す。巴も、蘭の最高に熱い演奏に刺激を受け、自分たちも最高の演奏ができたと話す。
今日あの歌が歌えたのは、蘭をこれまでずっと支えてくれたメンバー達のおかげなのだ。蘭は素直な気持ちでみんなに感謝する。それを聞いて、またまたひまりが泣き出す。
そんなところへ、蘭の父親が訪れた。Afterglowの演奏の感想を伝えた。高校生が趣味でやっているバンドなんてたかが知れている、そう思っていたが、情熱的で素晴らしい演奏だった。…若い頃の前のめりな感情が甦ってきたと。
蘭の音楽に対する情熱や思いは、しっかりと父親に伝わったのだ!これまでどれだけ真剣に打ち込んできたか…父親は理解してくれたのだ。蘭の父親は、一緒に作り上げてくれる仲間を大切にするようにと、蘭に告げる。父親は、蘭のバンド活動を認めてくれたのだ。それを聞いていたメンバー達も大喜び。本当によかった。これからもAfterglowとしてのバンド活動を続けていける。今日は、蘭にとっても、仲間たちにとっても、最高の一日だった!
第20話 「いつも通り」
ライブ後・楽屋
スタッフに挨拶するひまり。凄い盛り上がりを見せたライブだったと、また次を依頼されて大喜びするひまり。帰ろうとしていると、モカがなくしたと思っていたひまりお手製のお守りが、パーカーのポケットから出てきて、モカは大喜びする。モカはこのお守りが、自分たちの友情を守ってくれたのかなと、ちょっと嬉しそうにしている。
帰り道
ライブの帰り道、小さい頃よく遊んでいた公園横を通り、ちょっと懐かしさを感じたひまりが、寄り道していこうとみんなを誘う。
公園
小さい頃よく遊んだ公園が、変わっていなくてそのままの佇まいを見せている。それもまた、嬉しいものだ。蘭は、変えたくないものが多すぎて、いつの間にか「変わる」ということに抵抗を覚えていた。将来のことから逃げ、みんなとぶつかることからも逃げていた。何もかも今のままでいたい、そう思っていたのだった。でも、けんかし、みんなとぶつかり合って…そうやってきたから本当の意味で、みんなのことを信頼できるようになったのだと蘭は思った。
今日の演奏は、いつも以上にみんなとの一体感があった。蘭の気持ちがめちゃめちゃ伝わってきたと巴が話す。つぐみもまた、いつもよりも音からみんなのことを感じることができて、すごく楽しかったと続ける。
蘭もまた「私達は変われた」そして、今日新たに「Afterglow」が生まれたと続ける。
今日、新生Afterglowが誕生したのだ!Afterglowは、自分たちが変わらないということの証と同時に、変われるということの証でもある。だから、これからも大切にしていこう!と蘭は続ける。
Afterglowの次の目標…「目指せ、武道館!」これはつぐみの案。いつもつぐみの掲げる目標はとにかく前向きで、デカい。そう、バンドを組もうと言い出したのもつぐみだし、ガルジャムに出ようと言った時も、何かの始まりには、いつもつぐみの前向きな一言、そして後押しがあった。
だから、つぐみがいれば、Afterglowはまた一歩必ず前進できる!Afterglowは、無限の可能性を信じて、これからも前に進んでいくのだ。
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