第7話 ひとつの音楽
数日後・羽丘女子学園 校門前
あこは友希那とリサに元気よくあいさつする。今日もこれからスタジオ練習が待っている。3人で一緒に行こうとしたが、相変わらず友希那は一人でさっさと行ってしまう。その後を追うあことリサ。そして、追い付き、あこは友希那に思いっきり通せんぼ!ちょっとやり過ぎなところはあるが、そのくらい友希那と一緒に並んで歩きたいのだ。
あこがふとリサの指先に目をやると、ネイルは剥がれ落ちボロボロ状態になっている。友希那もハッと気付いたが、リサは話をはぐらかしてしまう。でも、友希那は、そのことについて、ネイルをとるのは正しいけど、練習ペースを守らないと指を壊してしまうかもしれないと心配する。リサは心配をかけまいといつもの明るさで話を再び逸らしてしまう。
スタジオ
スタジオ練習での友希那はやはり厳しい。あこのリズムの遅れについて注意する。紗夜もドラムのテンポをもっと意識するようにとリサに指示する。
練習後
猛特訓も終わり、リサもあこもすごく疲れてしまった。そこへ紗夜が新しい提案をする。オリジナル曲がまとまってきたので、課題曲を増やそうというのだ。リストアップされた曲名を示す。すると、友希那はそれを見て、バンドの底上げには最適なリストだから、来週までに全員練習してくるようにと指示を出す。練習が終わったら、その帰り、クレープを食べようと考えていたリサとあこだったが、それどころではなさそうだ。
宇田川家 リビング
あこが帰宅すると、ちょうど姉の巴が出かけようとしているところだった。どうやら商店街の友達に呼ばれているらしい。巴は一緒にと誘ってくれるのだが、さっきのスタジオ練習で、すでにあこは疲れ果てくたくた状態だった。一緒に行きたいのはやまやまなれど…今回は諦めることにした。
白金家 燐子の部屋
あこはすぐさま、今日のスタジオ練習のことをチャットで燐子に知らせる。まだ少しは怒られることもあるけど、認められるようになってきた事実…。毎晩のように続くバンドの話。あこは本当に友希那のバンドでやることが楽しくてしょうがないんだ。あこは、燐子に演奏中のバンドの動画を見せた。
燐子は、送られてきた演奏中のバンドの動画を見た。全員でひとつの音楽を作り上げている。何てすてきなんだろう。みんなで…ってこういうことなんだな~。すごいよ。
あこからの応答がない。ってことは寝落ち…?
燐子は送ってもらった動画を何度も見た。見るたびに身体が引き寄せられるような気がした。そして、こう考えてみた。自分のピアノとあこのドラムと友希那っちの演奏に重ねてみたら、どうなるんだろう?動画に合わせてピアノを弾いてみたら、どんな感じになるんだろう?
燐子はやってみたくなり、動画に燐子のピアノを合わせてみた。…楽しい!…すごく楽しい!…
第8話 わたし…弾けるの!
数日後・スタジオロビー
スタジオ練習が終わり、今日もまたリサとあこは疲れていた。すかさず紗夜がやって来て、通路でダラダラしないように注意する。友希那は次の予約を入れているところだった。スタッフから、イベントに穴が開いたので急きょ出演してみないかという話を受けた。
ライブハウス前
さっそくライブ出演が決まったことを大喜びするあこ。確かにこの地区のバンドにとっては登竜門と呼ばれているイベントだけど、紗夜と友希那としてはメジャーは音楽の頂点ではなく、自分たちの音楽はもっと高みを目指しているのだから、メジャーで満足してしまうようなメンバーはこのバンドには必要ないと考えているのだった。そして、あこには特に厳しく当たる紗夜だった。
あこは姉に憧れてドラムをやるようになった。ただただ姉のようになりたいという思いから、ドラムを頑張ってきたのだ。
紗夜は、妹の日菜とのやり取りを思い出した。妹はいつも自分と同じことばかりする…。紗夜はあこのことを日菜と重ねて見ていた。確かにあこのドラムの技術には素晴らしいものがある。だけど、それはただの「真似」にすぎないと言われ、あこは返す言葉が見つからなかった。そこでリサが助け船を出したが、今度は矛先をリサに向け、リサの演奏技術は大丈夫なのかと痛いところを突く。
今の最大の問題は、キーボード奏者が不在だということ。キーボードなしでこのジャンル特有の音の厚みは到底出すことは不可能。幸運にもライブ出演は決まったというのに…。とにかくキーボード奏者をみんなで探すしかない!
1週間後・スタジオ
あれから1週間が過ぎたが、未だにキーボード奏者は見つかっていない。友希那は冷静に考える。短期間にこの4人が集まったことの方が異常だ。妥協してまでメンバーは揃えたくない。再びキーボード奏者を見つけることにしたメンバーたち。それぞれの友達を当たってみることにした。
白金家 燐子の部屋
燐子は、みんなと合わせる演奏の不思議な感覚に魅せられていた。何度も何度も弾いてみて、楽しさは増すばかりだった。あっという間に時間が過ぎ去っていく…。その時、あこから電話がかかってきた。まだキーボードのパートが決まらない。誰か弾ける人知らないかな?
燐子は言えないでいた…。だけど、勇気を出してあこに伝えた。「私、…弾けるの!」
第9話 初めての大きな声
翌日・ライブハウス前
ライブハウス前で待ち合わせていたメンバーたちは、燐子の実力が気になっている。課題曲は燐子のレベルに合っていたのかどうか…。燐子は友希那の問いに答えようとするのだが、うまく話せないでいた。紗夜は燐子が自分と同じクラスであり、有名なピアノコンクールでの受賞歴もあることをすでに知っていた。いつも学校ではおとなしいから、このような場所に来るとは想像もしていなかったのだろう。
燐子は、心の中でつぶやく。(…この人たちと一緒に演奏したい…)結局あこの時と同じように、1曲だけのオーディションをすることになった。
スタジオ
そして、オーディションは始まった。燐子は手ごたえを感じていた。動画と合わせるより、はるかに凄い。ひとりより俄然楽しい。だからもっと、弾きたい!燐子はもっと弾きたいと感じていた。一緒にセッションしたメンバーたちもこの前感じた音に引き寄せられるような感覚を再び味わっていた。でも、5人の方がもっと凄かった…。全員この素晴らしさに言葉をなくす。
燐子のメンバー加入は文句なしで決まった!こんな不思議なことがあるものだろうか??でも、これは現実。燐子は、動画と一緒に何度もピアノを弾いていたことを明かす。一体感の秘密はここに合ったのか…。この5人のメンバーでライブに出演することを決めた。しかし、ライブ出演のことはあこから聞かされていなかったため、燐子は二の足を踏む。やる気のない者に割く時間はないと言われ、燐子は、今まで一度も出したことのない大きな声で、自分の意思を伝える。
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